墓仕舞いは親類一同や菩提寺まで巻き込む大問題
智寿子さんと利夫さん姉弟の家は、中国地方で十代も続いてきた古い家系でした。当然、故郷には農地や山林もあったのですが、一人っ子だった姉弟の父親が都会で勤め人になって以来、つながりも薄くなっていました。それでも、定年後に故郷へ帰った父母がいたころはよかったのですが、両親が相次いで亡くなったとき、姉弟の間で地元のお墓をどうしようかという話が持ち上がったのです。
墓仕舞いを伯父と住職に伝えて大反対
町のすぐ裏に位置する古い寺の墓地の一番いい場所に智寿子さんたちの家の墓所があります。田舎のことですから先祖代々の墓として一基にまとまっているのではなく、祖父母の代までで九基、分家せずに亡くなった親族の墓もあわせると十数基の墓石が並んでいます。
父母をそこに埋葬したとしても、自分たちも年齢を重ねるうちに、管理できなくなってしまうことにもなりかねません。そこで姉弟は都会の墓所を用意し、ご先祖さまの遺骨をまとめて改葬しようという結論になったのです。いわゆる「墓仕舞い」です。
姉弟のうち、自由な時間のとれる智寿子さんが田舎へ出向き、まず長老に改葬のあたる分家の叔父と菩提寺の住職に墓仕舞いの希望を伝えました。ある程度は予想していたことでしたが大反対です。
墓仕舞いの話はしっかり準備してから
叔父からは「この家は智寿ちゃんたちだけのものではない。確かにお祖父さん、お父さんたちは別だが、その前の大祖父さんたちは私らの先祖だ」。住職も「お宅の墓所が空になるのは町そのものの問題。それに改葬ということになれば、一基あたりいくらではないがお布施も大きくなってしまう」と話します。
自宅へ戻って利夫さんと対応を考えようとしてきたところへ、今度は故郷から主だった親戚が数人で押しかけてきました。全員が墓仕舞いは大変困るし大反対だというのです。
都会育ちで地縁や血縁意識があまりなかった姉弟は少し驚きましたが、もう少ししっかり準備してから墓仕舞いの話をすべきだったといまでは反省しています。