知らないと後悔する成年後見制度の落とし穴
認知症になってしまった人の財産を守るために用意されている「成年後見制度」。後見人には任意後見人と法定後見人のふたつがあります。後見人がいれば、財産を守り管理することができるのですが、実際は重い制限が課せられており、どれだけ家族や本人が希望してもできないことが数多く存在するのです。
成年後見制度の申し立ての原因と動機
平成30年度の最高裁判所「成年後見関係事件の概況」で成年後見制度の申し立ての原因を見てみると、そのほとんどは「認知症」で63.4%。あとは「知的障害」の9.9%、「統合失調症」の8.9%が続きます。この上位3つの原因が8割を占めているのです。
同じ資料で成年後見制度の申し立ての動機を見てみると、第1位が「預貯金等の管理・解約」で30,500件(42.0%)を占めています。第2位は「身上監護」で14,906件(20.5%)で、この2つで全体の6割です。
ただし、成年後見制度では生前贈与などを用いた相続税対策は、基本的にできません。生前贈与は、本人の所有財産を、相続に先立って子どもなどに贈与し、相続財産の総額を減少させる方法。これによって得をするのは被相続人ではなく相続人です。
成年後見制度を利用しても売却できない
表面的にみれば、被相続人の財産は減少してしまうことになります。後見人の目的は被後見人の財産を守ることです。わざわざ財産を贈与し、それを減らすような手続きは行うことができません。
後見人が財産を「守る」というのは、単に「減らさない」という意味ではありません。「増減にかかわらず、所有している財産をそのままのかたちで保存する」という意味です。そのため、所有財産の運用や売却もできなくなるのです。
成年後見制度を利用しても自宅の売却ができないのもこのためです。家族の話し合いで老人ホームに入ることになり、そのための資金を得るために自宅を売却しようという話になったとしても、後見人はその財産を守ろうとするため、売ることができないのです。
なかには、実家を売って二世帯住宅を建てようと親子で話し合っていたのに、父が認知症になったために計画が頓挫してしまったというケースもあります。