名義変更を放置したために起きた相続トラブル
名義変更を怠っていて権利が得られなくなる不動産の相続トラブル事例を見ていきましょう。杉下さんは4人兄弟の長男。弟たちは独立して、それぞれに家庭を持って生活していました。母親は5年前に他界。そして数年患っていた父親も亡くなり、財産の相続を行うことになりました。
名義変更の手続きが面倒で父親名義のまま
ただし、残されている財産といっても、自宅と預貯金に加え、少し離れたところにある土地だけです。土地は、昔から家族の間で話し合い、長男である杉下さんが引き継ぐということになっていました。
杉下さんは、土地の名義変更などの手続きをしなければと思っていましたが、期限がないことを知っており、手続きが面倒ということもあり、必要になったときにすればいいだろうと、亡くなった父親名義のままにしていました。
名義変更のことも忘れて5年が過ぎた頃、近所の人が杉下さんの土地を購入したいと持ちかけてきました。その土地の使い道に困っていたこともあり、この話を喜んで承諾。売却することにしたのです。
名義変更が難航を極める相続トラブル
ところが、土地の名義は亡くなった父親のままになっているので、売却するためには、杉下さんの名義に変更する必要があります。知り合いの司法書士に名義変更の依頼をしたところ、相続人で遺産分割協議を行い、杉下さんの名義にするための書類を作成し、全員から実印と印鑑証明をもらう必要があると告げられてしまいました。
相続人は杉下さんと3人の弟たちです。次男は遠方に住んでいます。三男は4年前に亡くなり、ふたりの成人した子どもがいますが、それほど親しいわけではありません。
小さな会社を経営している四男はといえば、会社の経営が厳しく、できるだけお金が必要という状況です。三男の子どもたちと四男は杉下さんが相続することに反対を示し、次男から印鑑をもらいにいくのも大変です。
そのため、名義変更の手続きは難航を極める相続トラブルに。結局、話がまとまることはありませんでした。その結果、本来、杉下さんのものとなるはずだった土地の売却代金は、相続人全員で法定相続分に応じて分割することになりました。杉下さんの手元に残ったのは、元の金額とは比べものにならない、わずかな金額のみでした。