母を思って子供が相続放棄したことによる失敗例
「遺産はすべて母に渡したい」と子供が考えて相続放棄をしたはずだったのに、順送りの相続順位で新しい相続人を登場させることになってしまいました。良かれと思った子供の相続放棄がかえって母親に負担をかけることになったのです。本当はどのような手続きを取れば意図通りになったのでしょうか。
相続は配偶者と法定相続人の子供
父親が亡くなってひとり暮らしをすることになった母から、困った声で佳子さんに電話があったのはひと月ほど前のことでした。
「倫さんたちがね、お父さんの遺産がもらえるはずだっていうのよ」「そんなバカなっ」と、そう思った佳子さんでしたが、姉の美子さんに相談すると一通り調べてくれたらしく数日後に連絡がありました。「困ったけど、叔母さんたちに相続権があるというのは本当らしいわ」
倫さんたちというのは、倫子さんと朋子さんという亡父の妹です。通常、相続は配偶者と法定相続人です。また法定相続人には順位があり、上の順位の相続人がいれば相続は下の順位まで及びません。
つまり、母親と法定相続人第1位の子供が遺産を分けるのであれば、叔母たちは関係ないのです。ところが今回は少し事情が違いました。佳子さん姉妹はそれぞれ家庭を持ち自立していたこともあり、父の財産はすべて母親のものにして老後の足しにしてほしいと考えたのです。
子供の相続放棄で相続権が移った
その結果、選んだ方法が相続放棄。自分たちが一切遺産をもらわないことにして、全資産を母に渡したいという思いでした。それで、家と預貯金や保険金などはすべて母が受け継ぐことになるはずでした。
ところがここに落とし穴がありました。法律では、相続放棄によって最初から相続人がいなかったことになるのです。つまり、法定相続人第1位の子供がいないことになり、第2位の両親もすでに他界、相続権が第3位の故人の兄弟姉妹に移ったのです。その法定相続分は、遺産総額の4分の1です。
佳子さん姉妹が本当に遺産のすべてを母親に引き継ぎたいと考えたら、本当は自分たちも相続人になったうえで、遺産分割協議書で全財産を母親が受け継ぐというように決めるべきだったのです。しかも相続放棄は申請後に取り消しができません。結局は叔母たちに、なにがしかの資産を渡さなければならないのです。