自筆証書遺言の「要式性」で無効になる具体例
自筆証書遺言書は「要式性」といって、法律で厳しく方式が決められています。そのため少しのミスで無効になることもあるのです。日付がないだけで無効になってしまうこともある遺言書のまさかの落とし穴について見ていきましょう。さらに、具体的な自筆証書遺言書のミス事例も確認しておきましょう。
遺言書に作成日の記載がないため無効
慶子さんはすでに結婚しており、夫と子どもがいます。彼女は実家に暮らしていて、73歳の父と、71歳の母と同居中です。弟もいますが結婚して独立し、遠方で生活しています。
そんなある日、慶子さんの父が病に倒れ、帰らぬ人になってしまいました。連絡を受けた弟も実家に駆けつけ、協力して葬儀などを行い、すべて終わって落ち着いたところで、母がふと思い出して、遺言書のことを話題にしました。
以前、父は急な病気で倒れて病院に運ばれたことがあり、もしものときのためにと遺言書を残していたのです。
慶子さんたちはこれをみつけ、家庭裁判所に行って検認を受けたのですが、「作成日の記載がないため認められない」といわれてしまいました。しかし、母は書かれている望みを叶えたいと主張。内容通りに相続を行うように慶子さんたち姉弟に提案しました。
自筆証書遺言は紙に記されていないと無効
慶子さんはそれに同意したものの、弟は内容が不公平だと訴えたのです。確認すると、確かに慶子さんの相続分が多くなっています。弟には結婚などで援助をしていたためにこのような分配になったようですが、頑として聞き入れません。このままでは相続が進まないと慶子さんは困り果ててしまいました。
ここで具体的に、自筆証書遺言書の無効事例を見ていきましょう。「ワープロや代筆で作成された遺言書」については、民法では遺言書を「全文、日付、氏名を自書せよ」と定めています。
「録音や録画した遺言」は、紙に記されたものでないため無効になります。「日付、氏名、押印のいずれか1つが欠けている遺言書」も無効事例。日付は西暦、元号を問いませんが、「平成○年○月」や「平成○年○月吉日」のように具体的な日付を特定できない書き方だと無効になります。また、押印に使用する印鑑は、認め印、拇印でも良いとされているが、本人が作成したことをより明確にしてトラブルを避けるためにも、実印を使用したほうが無難でしょう。
「訂正、加筆、削除を正しく行っていない自筆証書遺言書」も無効事例。一字を訂正する場合でも、①訂正箇所を二重線で消し、訂正後の文字をその近くに記入、②訂正箇所に押印、③訂正箇所の欄外、もしくは遺言書の最後に、「○字削除」「○字加入」に加えて、遺言者の署名も記入、といった手順を踏まなければなりません。