面倒が付きまとう「自筆の遺言書」トラブル事例
最近は「争族」という言葉もあるくらい、相続は難しいという話を聞いていた織原さん。でも、父親から「しっかりと自筆の遺言状を作ってあるから大丈夫」と聞かされてすっかり安心していました。しかも、そのことは兄弟姉妹全員が知っていることだと思い込んでいたのですが、どうもそうではなかったようです。
自筆の遺言書の封を切ってっしまった
ずっと元気だった父親が急に亡くなったと、同居していた妹から連絡があったときのことです。やはり多少気が動転してしまった織原さんは、自筆という遺言書のことまで頭が回りませんでした。葬儀が終わって自宅へ戻りほっとしたときに、妹さんから電話が入ったのです。
「遺言書が出てきたのでみてみたら酷いの。ここ10年世話した私に配慮したことなんかなにも書かれてないのよ!」「えっ、お前、遺言書を開けちゃったのか。それは違法行為だぞ」まるで知識のなかった妹さんは、大切なものだからすぐに内容確認が必要と考えて、封を切ってしまったというのでした。
ところがよく知られているように、遺言の効力を認めてもらうためには、家庭裁判所での検認という手続きが必要なのです。これは遺言の正当性と相続人全員への公平性のために、しっかり法律で定められています。
自筆証書遺言の場合は検認は必須要件
もっとも、検認前に開封したとしても、正しい書式で用意された遺言書の内容は自筆でも無効になるわけではありません。ただし、一応法律上では「5万円以下の罰金」を課せられる可能性があるとはなっています。もちろん、開封後であっても裁判所による検認は不可欠です。
3種類ある遺言書の形式のうち、自筆証書遺言などの場合は検認は必須要件で、公正証書遺言では必要ありません。検認を受けるには、申立書を提出し、相続人の立ち会いが必要になります。問題になるのは、この手続きに2カ月程度の時間が必要という点です。
相続税の申告は相続開始から10カ月以内と定められています。また、資産より負債の方が多かったりして、相続放棄を行いたい場合などの期限に関しては、なんとわずか3カ月としか認められていません。つまり、検認によって大切な時間が奪われてしまうのです。
その点、事前にお金と手間はかかりますが、先ほども挙げた公正証書遺言であれば、法的有効性があり開封禁止も検認もありません。織原さんは生前の父から遺言書の話を聞いたときにそのことを話せばよかったと悔やみました。