毎年同じ時期の同じ金額の贈与は「連年贈与」
贈与契約書を作成して問題なく生前贈与をしていたつもりでも、毎年同額の贈与を続けると税務署の調査が入ることもあります。孫に毎年110万円を贈与する形で贈与税をかからないよう画策したところ、税務署の調査の結果、「連年贈与」となって贈与税が課せられてしまった事例を見ていきましょう。
祖父は若くから大企業勤めで貯蓄十分
伸二さんは、両親と3人暮らしです。父方の祖父母は健在で、古くからの田舎の実家に住んでいます。父も伸二さんもひとりっ子だったため、祖父母にとって伸二さんはただひとりの孫。とくに祖父は、昔から伸二さんのことをとてもかわいがっていました。
祖父は若いころから大企業に勤めていたため、貯蓄も十分にあります。自宅は広い一戸建てで、伸二さんは小学生のころから夏休みなどの度に、祖父母が住む田舎に遊びに行くのを楽しみにしていました。伸二さんが高校生になると頻度は減ったものの、それでも年に何度かは顔をみせにいっていました。
伸二さんが成人する年の誕生日には、家族で祖父母の家を訪ね、お祝いをしました。もちろん祖父母も喜んでくれたのですが、そこで伸二さんは祖父から「退職してからのわたしの一番の楽しみは、お前が一人前になるのを見届けることだった。こうして無事に成人している姿をみられたのは本当に嬉しい」といわれたのです。
誕生日に110万円ずつ譲るようにした
祖父はさらに「わたしももう長くないから、蓄えはすべてお前に託そうと思う。だがそれでいま財産をすべて渡すと、税金がかかってしまう。せっかく財産を譲るなら無駄にならないようにしたいから、これから毎年、お前の誕生日に110万円ずつ譲るようにしたい。こうすれば贈与税はかからないそうだ。将来、結婚したり家を建てたりするようなときの資金にでもしてくれればいい」といいました。
両親はこの祖父母の申し出に驚きながらも感謝し、伸二さんに大事にするようにと通帳を預けてくれたのです。その後、この贈与は祖父の言葉どおり毎年続けられました。伸二さんは大学卒業後、実家を離れてひとり暮らしを始めましたが、毎年誕生日の前後には祖父母の家に顔をみせに訪ねています。
そして13年目の伸二さんの誕生日から一カ月後、伸二さんの元に祖母から連絡がありました。祖父が急な病で倒れたというのです。伸二さんたち一家は急いで祖父の元に駆けつけましたが、祖父はそのまま帰らぬ人になってしまいました。
連年贈与として課税されることが判明
その後、伸二さんたちは祖母を手伝いながら葬儀を行い、すべて滞りなく終了。一段落したところで家族で話し合い、祖母は広い実家にひとりで暮らすよりは、伸二さんの両親と同居した方がいいだろうという話になりました。
そこで、実家の片付けもかねて相続財産を調べてみると、自宅以外に預貯金がまだ1000万円近く残っていると判明。実家を売却すると総額でかなりの財産になりますが、これらは祖母が相続し、同居する両親に生活費を渡しながら、伸二さんへの贈与を続けることになりました。
こうして相続手続きを終えた祖母は、伸二さんの両親と平穏に暮らしていました。しかしある日、税務署から調査の知らせが届きました。戸惑いながらも正直に調査を受けた祖母に税務署員が告げたのは、祖父から伸二さんへの贈与は連年贈与となり、贈与税が課せられるということでした。
調べてみると、毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると連年贈与として「あらかじめまとまった財産をあげることを想定していた」と判断され、課税されることが判明。納税はできましたが、伸二さんは祖父の思いにケチがついてしまったように感じました。