遺産分割協議は相続人全員の同意が絶対に必要
相続人がだれになるのかを生前のうちに確認しておかないと、ときに骨肉の争いに発展してしまうことがあります。親族が複雑なのでだれが相続人かわからないために、相続人全員の同意が絶対に必要になる「遺産分割協議」が進められなくなった事例を見ていきましょう。
家族が不仲にならないよういいつけ
孝史さんの家庭は3人兄弟。3歳年上の姉と、1歳年下の弟がいます。彼ら全員が成人したとき、まだ50代のうちに母は亡くなっていました。3人は独立し、それぞれに家庭を持ってはいましたが、年末年始と盆には実家に集まり、各自の家族が揃って顔を合わせるようにしていたのです。
父は50代のころに一度大きな病気をしており、その影響であまり長く生きられないだろうと自ら語っていました。そして79歳のときに病気が再発。入退院を繰り返す療養生活を強いられることになり、その2年後に帰らぬ人に。
父は遺言書こそ残してはいなかったものの、生前から家族が集まる度に「自宅は一番近くに住んでいる長女が相続して売却し、その売却益と預貯金は3人で等分してほしい。なにより家族で不仲になってしまうようなことだけはしないでくれ」と口がすっぱくなるほど、繰り返しいいつけていました。
父親には兄弟が知らなかった相続人
孝史さんと兄弟はその言葉をしっかりと守り、相続の相談を始めるにあたってまず近所の司法書士に父からの言葉や希望を伝え、その通りに相続したいので手伝って欲しいと依頼。司法書士はそれを受けて早速調査を始めたのですが、思わぬ問題が発生しました。父には兄弟が知らなかった相続人がいたのです。
その相続人とは、父の孫でした。父には離婚歴があり、前妻との間に子どもがいました。その子どもはすでに亡くなっていましたが、その人は結婚して子どもがおり、それがもうひとりの相続人だというのです。
確かに彼ら兄弟は、生前の父から異母兄弟について聞かされてはいました。しかし、父が語っていたのは、「大学を卒業するまでは教育費などを支払ったりしていたが、それ以降はほとんど交流がない」ということ。「その子どもが40歳になったころに病気で亡くなったとだけ前妻から知らされ、葬儀にも来ないでいいといわれた」ということだけでした。
遺産分割協議には相続人全員の同意
つまり、すでに亡くなってはいるものの、彼ら兄弟には顔もみたことがない兄がいて、その兄の息子が相続人としての権利を持っているということです。これは彼らにとって寝耳に水でした。
遺産分割協議をするときには、相続人全員の同意が、絶対に必要です。そのため、正しく財産を分けて相続するためには、この見ず知らずの甥に連絡を取り、協議に参加してもらわなければなりません。そこで彼らは司法書士とも相談し、この甥が今どこに住んでいるのかを調べ、連絡を取ることにしました。
この作業はそこまで難しいことではなく、戸籍を辿ることで住所は判明。そこに宛てて「相続の手続きを行っていること」と、「そのために直接会って話す機会を設けたい」という希望を手紙で伝えました。
ところがそれに対して返信が一切ありません。直接本人に聞けないならと、代わりに父の前妻にも連絡を取ったのですが、結果は同じでした。