自分の利益のために遺言書を隠すと相続人を欠格
相続人が遺言書を隠していて、他の相続人に見せようとしない…。このような場合、ペナルティは発生するのでしょうか。遺言書を隠匿したら法律で罰せられるのかを見ていきましょう。遺言書を隠匿して相続人の資格が欠格になるのは、あくまで自分の利益のために隠した場合のみなのでした。
母の部屋から公正証書遺言のコピー
祐基さんの家庭は、兄弟の仲があまりよくありませんでした。兄である祐基さんはよい兄として接するように努めていたのですが、弟は昔から負けん気が強く、祐基さんだけでなく、家族のだれに対しても反発することが多かったのです。
それでも厳格な父のいうことは聞いていたのですが、父が亡くなると、兄や母にきつい言葉を投げかけることが増えました。そんな折、父に続いて母も亡くなってしまったのです。
当初、祐基さんはこれでますます兄弟仲が悪くなると思っていました。しかし、弟も少なからずショックだった様子で、葬儀にも素直に協力してくれました。実家で家族の思い出を語り合うこともできたのです。祐基さんも母の死は悲しかったものの、これで兄弟仲がよくなるかもと微かな望みを抱きました。
順調に葬儀は済み、続いて相続の準備に。そこで祐基さんが母の部屋を整理していたところ、「子どもたちへ」と書かれた封筒がみつかりました。中身は公正証書遺言のコピーで、確認すると、遺産分割は老後の世話もしてくれた祐基さんが有利になるように書かれていたのです。
遺言書を隠すことで欠格になるケース
これは祐基さんにとって、手放しでは喜べない気遣いでした。この内容を知れば、きっと弟は怒るはず。また以前のような関係に戻ってしまうかもしれません。
そこで祐基さんは、遺言をみなかったことにして、あえて遺産分割協議をしたのです。しかし、これが思わぬ波紋を生みます。なんと母は、近隣の友人に念のためにと遺言書のことを伝えていたのです。
母の訃報を聞いた友人は彼らの家にその旨を連絡。それを聞いた弟が、母の部屋を捜索し、封が開いた状態のコピーの遺言書をみつけ、祐基さんがそれを隠していたことがばれてしまったのです。これに怒った弟が主張したのは、遺言書を隠したなら、そもそも相続人の資格はないはずだということでした。
困った祐基さんは家庭裁判所に相談にいきました。すると、欠格になるのは、あくまで自分の利益のために隠した場合のみとのこと。祐基さんのケースでは欠格事由にあたらず、弟からの理解も得られ、平等に分けることになりました。以来、弟の接し方は柔らかくなり、兄弟関係も平穏に続いています。