モンゴル語には馬の基本的な毛色だけで20種類
中央アジアの世界を描いた人気漫画『乙嫁語り』には、村の人が襲撃の報復として、馬のたてがみや尾を切るシーンがあります。このことからも分かるように、遊牧民にとって、馬は特別な意味を持った家畜です。実際、遊牧民として知られるモンゴル語には馬の基本的な毛色だけで20種類もあります。
モンゴル語の毛色の名称は120以上
モンゴルの遊牧民の間では、「モンゴル人は馬上で育つ」というそうです。また、「モンゴル人の足は四本」といった言葉まであります。遊牧民と馬とは切っても切れない関係なのです。
また、民話にも馬が登場して活躍します。モンゴルに伝わる英雄譚ジャンガルでは、勇士ミニヤンと共に彼の駿馬(足の速い優れた馬のこと)が活躍します。この駿馬は勇士を乗せるだけでなく、人の言葉を理解して彼の相談にものります。馬は普通の動物を超えた存在として描かれているのです。
馬が遊牧民にとってどれほど身近で重要な存在であるかを示すものとして、馬に関する言葉の豊かさがあります。語彙が豊富であるということは、それについて細かな情報をやり取りする必要があったということを示しているからです。
モンゴル語の例ですが、モンゴル語では馬を識別するために、馬の毛色や毛の部分的な特徴、体の部分的な特徴、年齢、性別などを区分する独立した言葉があります。例えば、馬の基本的な毛色だけで約20種類、基本となる毛色を組み合わせた毛色の名称は120種類以上にもなります。
モンゴル人の馬に関する驚異的な能力
その他、斑紋(まだらの模様)があったり、尾毛の美しさであったり、耳や目、鼻の形といったものを示す語が豊富にあります。また、馬の年齢によっても別の言葉が用意されていますし、性別と年齢を組み合わせた語、例えば、三歳以上の去勢をしていない雄馬を示す語や、逆に去勢をした雄馬を示す語などもあります。
こうした言葉があるということは、それを識別することがモンゴル人にとっては可能であるということを意味しています。例えば、通常は、馬の年齢は歯の磨耗状態などによって判断されますが、モンゴルの遊牧民は、外見だけで言い当てることができるそうです。
そして、これだけ馬を詳細に観察していることから、自分の馬が群れからいなくなると、すぐに分かるそうです。このように、日本人からすると、驚異的な能力をモンゴルの遊牧民は持っています。
例えば、1つの群れに馬が500頭いたとして、そこから数頭の馬がいなくなると分かるとのこと。これは引き算をして、「もともと500頭いたはずなのに今は495頭しかいないから、5頭足りない」と考えているわけでありません。
500頭の馬群の中には種雄に率いられた30頭前後の小さな群れがあることを知っていて、その群れごとに一頭一頭の馬の特徴を覚えているのです。
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