乙嫁語りで描かれるヒツジの放牧のウラ事情とは
『乙嫁語り』の作中では、主にヒツジを放牧しているところが描かれています。カルルクの遠縁のウマクおじさんのところでアミルが放牧を手伝っていたのもヒツジですし【第四話】、タラスが放牧していたのもヒツジです【第十三話】。しかし、実際には遊牧民は何種類かの家畜を飼っているのが普通です。
乙嫁語りではラクダとヤギを放牧
『乙嫁語り』の【第四十六話】には、アゼルのセリフとして「ラクダとヤギもお前(ジョルクのこと)が放牧に連れて行け」というものがあります。
このことから、アゼルたちは少なくともヒツジと馬に加えて、ラクダとヤギを飼っていることが分かります。一般的には、ヒツジ、ヤギ、馬、牛、ラクダを組み合わせて飼っていたようです。これらを五畜といいます。
それぞれの家畜の比率は、放牧地の状況などによって変わります。例えば、山岳地域に放牧地がある場合は、ヤギの比率が高くなります。
なぜ、一種類の家畜に集約しないのかというと、遊牧民にとって家畜はほぼ財産の全てなので、一種類の家畜しか飼っていないと、病気などによってその家畜が全滅した場合、全財産を失うことになるからです。
ヒツジのような家畜を放牧する場合、群れは最低でも2つに分けます。通常は、その年に出産したヒツジの群れと、その年に生まれたヒツジと種雄の群れに分けます。
乙嫁語りで放牧を手伝うアミル
親子を分けるのには、子ヒツジが乳を吸ってしまうと人間が絞ることができる量が減るという理由と、早めに乳離れをさせて草を食べさせるようにして子ヒツジの成長を早めるという理由があります。
『乙嫁語り』では【第四話】で放牧を手伝っているアミルが「あとでメスのほうも連れてこないと」といっています。メスはまだ子ヒツジと一緒に飼われているようなので、生まれた子ヒツジがまだ乳離れできず、子ヒツジの群れが作られていない時期のようです。
ちなみに、アミルが先に連れて行った群れは、メスでないとするとオスということになりそうですが、おそらくはオスとはいっても大半は去勢済みのオスではないかと思われます。今年出産しなかったメスも含まれているかもしれません。
群れの中にオスを入れておくと、発情期にはメスを巡る争いが起こって、群れが分裂する原因になってしまいますから、通常は数頭の種雄を残して、オスは去勢されてしまうのです。去勢されたオスは、肉に脂がのり美味しくなり、毛並みもよくなるそうです。
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