『わろてんか』モデルの吉本せいが歩んだ60年
2017年10月から2018年3月にかけて放送される、NHK連続テレビ小説『わろてんか』。いつも「笑い」を振りまきながら周りを朗らかにするヒロインが、「笑い」をこよなく愛する夫とともに「笑い」を商売とし、日本中の人を笑わせるべく奔走するといったストーリーだ。
吉本せいの人生は『わろてんか』以上
よく知られているようにこのヒロインのモデルは、吉本興業の創業者・吉本せいだ。実際、吉本せいの人生は『わろてんか』以上に波瀾万丈。彼女を取り巻く人々も物語の出演者たちよりはるかに多彩で面白いキャラクター揃いとなっている。
明治の後半、商都大阪の老舗荒物問屋の惣領息子に嫁いだせい。しかし、夫となった吉兵衛(初名は吉次郎、通称は泰三)は、芸事好きが嵩じて家業を顧みず、ついには荒物問屋を廃業してしまう。ところが、家業を潰した吉兵衛は、なんと場末の寄席経営に乗り出す。
その後は、夫婦二人三脚で苦労をかさね、ついに上方一の興行主に。その矢先、多くの寄席・演芸場と莫大な借金を残して、吉兵衛は急逝してしまう。しかし、残された吉本せいは、笑いの力を信じて実の弟ふたりの協力を得ながら、夫とともに目指した夢の実現へと突き進んでいく。
吉本せいが「笑いの王国」の礎を築く
吉本せいが駆け抜けた明治から大正、昭和は、あたかも新しい技術・文化のうねりが日本の世相を大きく変貌させていた時代。大衆演芸の人気は落語から女義太夫、安来節、万歳~漫才へとめまぐるしく移り、娯楽の楽しみ方も寄席・演芸場から、レコード、ラジオ、映画へと次々と登場する新しいメディアに取って代わられる。
そしてそれぞれの時代ごとに、ひとクセもふたクセもある興行主や芸人たちが入れ替わり立ち替わり登場して世間を騒がせ、やがて消えていった。
そんな奔流を見事に泳ぎ切り、今日まで続く「笑いの王国」吉本の礎をしっかりと築いた吉本せい。彼女が歩んだ紆余曲折の60年の人生は、痛快で誰の目にも興味深く映るだろう。この一冊で、ぜひともそんな吉本せいの立志伝を味わっていただきたい。
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